故郷の原風景


   


平成29年7月
若林 明彦(彦根市出身 蓮田市在住)

  『原風景』という言葉から考えられるのは、通常は視覚に訴えるものが多いが、私の場合は
視覚の他に臭覚に訴えるものがある。  
私は、5歳の小学校に入るまで、千葉県の銚子で育った。銚子といえば、醤油の町であり
漁師の町であるが、父の仕事の関係で 醤油の町の印象が深い。
小学校に入学する前の年の12月に、祖父が亡くなった。
父は その時には、重要なポストに就いていた為、父を残して 家族全員 彦根に帰る事になった。  
彦根の家は、代々庄屋を務め 大きな屋敷も有り 祖母も“家を守る”という考えが強かった為、
祖母に銚子に来てもらう事は到底無理な話で、父は単身赴任せざるを得ない状況であった。
夏休みになると、毎年 銚子に行ったが 銚子の駅に着くと醤油の香りがし、“帰ったんだな〜”
という気がしたもので、この年になっても偶に行ったりすると、醤油の香りに懐かしさを覚える。  
小学校・中学校・高校と彦根で育ったが、その時を振り返ると琵琶湖と彦根城が思い出される。
今では 湖岸道路が出来て、琵琶湖沿いで泳ぐことは、出来なくなっているが、当時は、家から
琵琶湖まで数分で行けた事もあり、浜辺でよく遊んだ。
現在、兄が家を継いでいるが、琵琶湖と湖に浮かぶ多景島・竹生島を見ると懐かしさが蘇る。
琵琶湖と共に、彦根城も故郷を思い出させる。 
通学で、毎日 彦根城の中堀の中に在る高校に通い、昼休みには学生証で彦根城に入り
バレーボール等に興じた事もあり、彦根城を見ると当時が思い出される。  
年を重ね 故郷を思い起こすとき、
臭覚からくる“醤油の香り”と視覚からくる“琵琶湖と彦根城”が、私の『現風景』である。