他県人会投稿

「コロナから透けて見える日本」
 
令和2年5月
神奈川滋賀県人会  安村幸夫

  新型コロナウイルスが猛威を振るい、世界各国が感染拡大対策、経済対策を打ち出す中、テレワークですっかり、 俄か「コロナ・アナリスト」になり、日本の取組が世界から見て、非常識となっていることがコロナを通じて透けて見えてきた。これは我々日本人の国民性、本質に根ざす問題のように見え、立て直しには国家百年の大計の見直しが必要だろう。
  1つ目は、PCR検査が段違いに少ないこと。米国を除く先進諸国の十数分の一以下、隣の 中韓より劣る。 重篤患者優先の検査方針と言われるが、負け惜しみのようにしか聞こえない。検査機関・保健所の専門家不足、機器・設備不足が一番の要因だ。機器、専門家が十分なら検査拡大は可能だった。かつては公衆衛生大国であった日本が、どこかで間違った道を選択してしまったのか。少子高齢化で社会保障費削減が喫緊の課題だが、感染症対策を疎かにした付けが回ったのではないか。今回に限らず、病院の中でも、普段から感染症対策は主役の立場にないのではないか。かつての感染症患者からすると、尚更、強く感じる。
  2つ目は、感染拡大対策が後手に回ったこと。コロナの発生源である中国との関係再構築、貿易拡大に前のめりになる余り、4月の習近平来日に悪影響が出てはと過剰な外交的配慮が裏目となったのではないか。初期段階からPCR検査を1日1万件規模で行う韓国の実情を 直視しようとしなかった。未だドライブスルー検査先進国の例に倣おうともしない。従軍慰安婦・徴用工問題など機微に触れる外交問題はあるが、国民の生命第一でバイアスなしに向き合うべきだったのではないか。
  3つ目は、経済対策の規模が小さいこと。108兆円規模と言われているが、真水は20兆円 程度とか。一般世帯への現金給付30万円も含まれるが、条件が厳しく、実質は全世帯の   4分の1程度とも言われている。欧州は8~10割、減収補償を行う国々が多いのに、先進国では、日本は米国並み。日本は、世界と米国を取り違え、米国がイコール世界だと誤解している。世界観を見直す時だ。また、経済対策がこの程度となっているのは、日本の財政赤字の累積額が大きく、財政硬直のため、今回のコロナ国難にも「無い袖は振れない」状態だ。遅きに失するが、予算編成制度を根本から見直すべき最後の機会かもしれない。
  4つ目は、テレワークが進まないこと。技術先進大国・日本でテレワークが8割は進めることが難しいことに世界が驚いている。IT機器を導入しても、仕事の仕方を改革してこなかった。紙も並行して必要だし、社員が顔を合わせ、小田原評定をやっても、物事が決められない。ポスト毎の職責と目標を定め、業績評価するシステムができていない。働き方改革は長時間労働対策ではないのだ。ハードを配ってもダメ。働き方というソフトを変えないとダメだ。
  5つ目は、リーダーシップが分裂していること。休業要請、協力金を巡って、国と地方、東京と府県が対立している。危機の時ほど、国家の統治構造の姿がはっきり現れ、各国の違いが出る。その典型は戦争で、旧日本軍は、前線の部隊長が世界に類を見ないほど優秀だったが、大本営は陸軍、海軍の対立の中で御殿女中を決め込んだと占領軍は分析したそうだ。コロナ騒動の中に同じ構図が見えてこないか。日本人のDNA化していれば、空恐ろしい。
  6つ目は、科学と経済、政治との関係が逆転していること。科学は人命と言い換えても良い。科学的知識で感染拡大防止を図るべき時に、経済重視で後手を踏む政治的決定を行ってしまったのではないか。アインシュタインは、「神はダイス(科学)で遊ばない」と有名な言葉を残している。TVはワイドショー化し、許認可を通じた政治介入に及び腰で、御用ジャーナリストが幅を利かし、井戸端会議の域を出ない。米国は、ホワイトハウスと科学者の代表・ファウチ博士によるトランプ政権の内輪揉めをジャーナリズムが的確に描き、国民に選択を迫る緊張感がある。時間のかかる民主主義プロセスだが、米国甦生は期待 できる。日本は「ぬるま湯」だ。
  7つ目は、中国の果断な動きが突出していること。発生源とまだ断定はできないらしいが、共産主義、全体主義の 中国は都市封鎖など私権制限で感染拡大を封じ込め、IT機器などを使った感染ルート追跡、テレワーク推進ソフト 提供などで、コロナ後の世界をリードしかねない勢いだ。先進国は中国に懐疑的な姿勢を崩さないだろうが、その他の国々は、これに飛びつくかもしれない。実に実利的だ。「蛙飛び現象」が起こって、コロナ後の世界は、あっという間に日本が多くの国々に抜き去られるという現実を見ないとも限らない。戦後、「ペスト」を書き、ノーベル文学賞作家となったカミュは、戦前、戦中の欧州で人々の間に伝染病のように伝わった「ナチズム」を「ペスト」として具象化することで、戦後世界に警鐘をならしたそうだ。
  今回のコロナ騒ぎも、コロナのもたらす様々な脅威に呆然と立ち尽くすことなく、世界が同時並行で政策展開する中、日本が大いに参考とする事例を学習しつつ実践できる好機ととらえ、国家百年の大計を建てていきたいものだ。